GREETING ごあいさつ
- HOME
- ごあいさつ
福島ビエンナーレ2024
「風月の芸術祭」〜起〜開催にあたって
藝術監督(福島大学芸術による地域創造研究所)
渡邊 晃一
福島県で2004年からビエンナーレ(隔年)で開催されてきた現代アートの祭典は、2020年、2022年は、白河市の歴史、文化を基盤に展開してきました。「風月」というタイトルは江戸時代の白河藩主松平定信の雅号に由来します。
自然を愛で、文化を享受する松平定信の「士民共楽」の精神を受け継ぎ、白河市と関連する城下町の歴史・文化を学びながら、新たに国際的なアーティストと地域住民との協働によって、白河市のパブリック・リレーションズ(Pubric Relations:PR)とともに、地域の次代を担う子どもたちをはじめ幅広い年代の皆様に、アートと関わる機会を継続的に提供してきました。
今年の芸術祭は、これまでの「祈/Prayer」(2020)や「境/Borderless」(2022)を引き継ぎ、「起/Rise」をテーマに開催します。「起」には、白河の伝統的な「だるま」の七転八起にちなむとともに、起立や起動などの上昇志向や、起源や縁起などの<相依性>(そうえしょう)などと関連するものです。<相依性>は、あらゆる事物はそれ単独で成り立ち、存在しているのではなく、他と「相」(あい)互いに「依」(よ)り合う、という関係性において成り立っているという意味があります。立ち上がり、前進して活動することと、縁起として多様な世界と関わることの二つの意味を「起」は含み持っています。「rise」はまた、高めるや育てるという意味も込められています。
今夏、皆様にも是非、白河で展開される現代アートの祭典を満喫していただければ幸いです。
1.「風月」というタイトル
「風月の芸術祭」というタイトルは、江戸時代の陸奥国白河藩主、松平定信公の雅号「風月」に由来します。「風月」は、清風と明月。秋の自然、風物に親しむことや、風流に親しんで詩歌を創作すること(才能)を示します。英訳すると「beauties of nature」「converse with nature」の意味があり、自然を愛で、文化を享受する心を伝えるものです。「風月の芸術祭」では、松平定信と関連する白河小峰城や南湖公園、白河関跡、奥州街道にある城下町の歴史・文化資源を活用し、多種多様な現代美術の展覧会、公演、講演会、シンポジウム、ワークショップを開催します。
2.「福島ビエンナーレ」とは
白河市には、自然と歴史、文化、芸術との関わりを伝える重要な資源が多数あります。
東に阿武隈、西に那須連峰の雄大な景色を一望できる地に位置する白河は、東北地方および北海道をまとめて「白河以北」と称した歴史がありました。陸奥(みちのく)=東北の玄関として扱われます。
白河の関は平城京の頃から都から陸奥国(東北)に通じる関門として史上名高い場所でした。
奥州合戦の際、白河に達した時、源頼朝の命で詠まれた「秋風に草木の露をば払わせて、君が越ゆれば関守も無し」と重ね、松尾芭蕉は「白河の関にかかりて旅ごころ定まりぬ」と、みちのく路の第一歩を踏み出し、陸奥(みちのく)を越える旅に思いを馳せました。
陸奥国白河は江戸時代、奥州街道の要地であり、戊辰戦争において白河小峰城の奪還は、奥羽越列藩同盟軍(会津・仙台・庄内藩を中心とした東軍)と新政府軍(薩摩・長州藩を中心とした西軍)の戦局を大きく左右しました。「白河口の戦い」(1868年)における犠牲者の墓や慰霊碑を、今も地元の住民は両軍を分け隔てなく弔い続けています。
本企画のタイトルとなった「風月」を雅号とする松平定信は、日本の伝統的な文化史の編纂や教育、藝術活動に多大なる影響を与えた人物として知られています。蘭書の翻訳事業を行い、教育政策として幕府直轄の「昌平坂学問所」を創設しました。幕府天文方の流れを汲む開成所と医学所を併せた本所は、東京大学や東京師範学校(筑波大学や御茶ノ水女子大学)の源流ともなりました。定信に認められ、エッチングによる洋式銅版画を修得した亜欧堂田善は、葛飾北斎や歌川国芳らの「浮世絵」の洋風表現に影響を与え、「解体新書」の画家として知られています。
定信は自らも書画を嗜み、谷文晁らと『集古十種』を編纂し、古画古物の模写約2000点が記録されています。定信が城下の繁栄を願い、職人に技術を習得させ、お抱え絵師の谷文晁に図柄を考案させたとされる「白河だるま」は今も縁起物として引き継がれています。
白河藩主時代に定信は、「士民共楽」の理念のもと庭園 (1801年) を造成し、庶民に開放しました。日本初の公園とされる南湖公園は、茶室「松風亭蘿月庵」や定信を敬慕した渋沢栄一が尽力した南湖神社も設立され、国の史跡および名勝に指定されています。
白河はまた近年、「狛犬の聖地」として注目を集めています。江戸末期から昭和初期にかけて小松利平、寅吉らによって制作された独創的な「飛翔狛犬」などの作品が多数残されています。
司馬遼太郎の『街道を行く』のなかに野バラの教会として紹介されている白河ハリストス正教会には、48点のイコンがあり、その中には、ロシアからもたらされた作品や、日本最初のイコン画家であり、女流画家の山下りんの作品が残されています。江戸時代から継承される城下町文化は明治期も引き継がれました。
白河市にはこのように地域の気候・風土や城下町の歴史を活かした様々な伝統工芸・文化があり、今なお脈々と受け継がれています。
近年では、東日本大震災や新型コロナウィルスの影響が続きましたが、「風月の芸術祭」は地域文化を守り、広くアピールしていきたいと考えています。
本企画は、国際的なアーティストの活動と白河の伝統的な地域文化を結びつけ、世界に向けて発信していきます。
3.「起」をテーマとした白河の歴史と文化
今年の芸術祭は「起/Rise」をテーマに開催します。これまでの「祈/Prayer」(2020)や「境/Borderless」というテーマを引き継ぐものです。
「起」には、白河の伝統的な「だるま」の七転八起にちなむとともに、起立や起動などの上昇志向や、起源や縁起などの<相依性>などと関連するものです。<相依性>は、あらゆる事物はそれ単独で成り立ち、存在しているのではなく、他と「相(あい)」互いに「依(よ)」り合う、という関係性において成り立っているという意味があります。立ち上がり、前進して活動することと、縁起として多様な世界と関わることの二つの意味を「起」は含み持っています。「Rise」はまた、高めるや育てるという意味も込められています。